ネイサン・チェンが世界最高点で世界フィギュアスケート選手権を連覇

ネイサン・チェンが世界最高点で世界フィギュアスケート選手権を連覇

記憶にも記録にも残る試合

【大会レポート1 ショートプログラム編】

大会レポート2フリー編はこちら

 

3月20日(水)~24日(日)、さいたまスーパーアリーナで世界フィギュアスケート選手権2019が開催された。日本での開催は5年ぶり7度目。オリンピック後の大幅なルール改正となったシーズンを締めくくる試合でもあり、前半のグランプリ・シリーズから国内選手権を経てシーズン集大成となる最終戦を各国選手たちがどう戦うのか、いつものワールドにも増して興味深い試合となった。また、昨年11月のグランプリ・シリーズロシア大会で右足首を負傷した羽生結弦が久々に登場。直前の四大陸選手権で初のISUチャンピオンシップのタイトルを獲得した宇野昌磨や全米選手権で驚異の得点をあげたネイサン・チェンなど役者が揃い試合前から大いに盛り上がった大会となった。

結果は、フリーで先に滑った羽生がルール変更後のその時点での世界最高点を獲得。その直後にショート、フリーの合計323.42点を出したネイサンが世界最高点を塗り替えて連覇。非常にハイレベルで両者死闘を尽くした名勝負となった。10代男子の連覇はアレクセイ・ヤグディン以来20年ぶりであり、アメリカ男子の世界選手権複数回優勝はブライアン・ボイタノ以来31年ぶり。アメリカ男子の連覇はスコット・ハミルトンの4連覇以来35年ぶり。ヴィンセント・ジョウも3位に入りアメリカ男子の複数メダルはトッド・エルドリッチとルディ・ガリンド以来23年ぶりというまさに記録づくめの優勝となった。

今季最高のショートプログラム

グランプリ・シリーズではジャンプにミスが出てなかなかクリーンに演技ができなかったショートプログラム。ネイサンは世界選手権ではほぼクリーンに滑ることができた。羽生、宇野と先に滑った日本選手たちにジャンプのミスが出てどことなく元気のない会場にネイサンが最終滑走で登場。キャランバン冒頭、脱力するような動きに合わせた絶妙な掛け声は少なかったものの、滑り始めると同時に手拍子で応える観客。これには滑走後のCBCのインタビューでネイサンも「観客が冒頭から素晴らしくてエネルギーを感じてそれを活かそうとした」と話していた。最初のトリプルアクセルがなんなく決まると、当初の構成では次のソロジャンプは4回転フリップの予定だったが不調のため当日朝の公式練習から4回転ルッツに変更。6分間では非常に美しい4回転ルッツを2回跳んだが本番では少しだけ乱れてしまったのが惜しい(4Lz基礎点11.50+GOE2.63 14.13点)。しかし、不調だからとさらに高難度のルッツに変更できるのは複数クワドを操るネイサンならでは。非常に大きな強みだ。今季のルール改正でSPのソロジャンプはステップから直ちにという要件がなくなったのも功を奏したかもしれない。

その後足換えのキャメルスピンを挟んで後半のジャンプ4回転トゥループ+3回転トゥループも着氷。3つのジャンプ全てでGOEプラスを引き出し、スピン、ステップも最高難度レベル4で揃え、最後は笑顔でフィニッシュ。滑り始めからエネルギッシュで明確なステップとターンを踏み、上半身のムーブメントも素晴らしく音楽によく合っていた。今季国際大会でなかなかクリーンな演技ができなかったが、最後に世界選手権でミスのない演技をしガッツポーズも飛び出した。技術点は他を圧倒する60.98点、演技構成点も5項目全てに9点台を並べ、46.42点とパーソナルベストの演技となった。

終始笑顔溢れる演技のネイサン(USスケート連盟Fanzone)より

ショートプログラム(解説なし)

【フジテレビ公式】世界フィギュアスケート選手権2019<男子ショートプログラム・第6グループ>ノーカット配信

 

ショートプログラムプロトコル

ショートプログラムを終えて、2位のジェイソン・ブラウンと10.59点差、3位の羽生とは12.53点差となった。ジョウも4位となりアメリカ男子3人が最終グループに残るという展開となった。

試合終了後に行われたインタビューやプレスカンファレンスでは次のように話した。

SPについては非常に満足しています。今季が競技人生の中でも一番気に入っています。大学とスケートを両立できるということがわかって、安心しているということもあります。スケート以外の自分の性格や考え方も、発見することができました。スケートだけが全てじゃない。世界に何か影響を与えたい、思い上がりに聞こえて欲しくないのですが、スケート以外のところで(世界を)良くしていきたいんだ。

このふたりの選手と共に上位3人のポジションになれたことを本当に光栄に思っています。何年間もこのふたりと一緒に競技をやっているのですが、彼らがいるおかげで僕もよりよいスケート選手になれていると実感しています。

また、23日のフリープログラムで6クワドに挑戦するかと聞かれると「正直に言うと今は6クワドの練習はしていないからそれは絶対ない(笑)。(昨季の6クワド挑戦は)誇りに思うし、今後も挑戦していきたいけれど、昨季はもっと状態が良かった。そのうちその状態を取り戻したいと思っているけれど今はその時じゃないと思う」(CBCインタビューより)

羽生はショートプログラムでは4回転サルコウが2回転となるミスが出て3位となったものの、2年前の四大陸選手権やヘルシンキワールドを思い起こすと12.53点差は決して逆転不可能な点数ではない。23日のフリーは羽生の次の23番滑走。羽生の演技後、ファンが「くまのプーさん」のぬいぐるみを大量に投げ入れることに対して聞かれると、「プーさんの嵐もかなりの光景だけど、事前に分かっているので備えればいい」と笑って答えた。

6位の宇野まで16点差。技術点が高いフリーで最終グループ皆にチャンスがある巻き返し可能な点差で勝負はフリーに持ち越された。

大会レポート2 フリー編に続く

【資料:クリックしてください】

(1)2019世界選手権男子SPリザルト

(2)2019世界選手権男子SPプロトコルPDF

(3)フリー抽選、スモールメダル授与、プレスカンファレンス動画