ルール改正がネイサンに及ぼす影響について考える(2018.6.1寄稿 追記あり)

ルール改正がネイサンに及ぼす影響について考える(2018.6.1寄稿 追記あり)

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フィギュアスケートのルールは2年に一度改正されるが、オリンピックシーズンが終わると、ひときわ大きなルール改正がある。近年ではバンクバー五輪後に大きな改正があったが、今回のルール改正はそれと並ぶほどの改正で大きな変化をもたらすかもしれない。バンクーバー後では、SPで四回転ジャンプが跳べる数が1度から2度に増えたことも大きな変更点であったが、最大の変更は回転不足やミス(エラー)の減点が軽減されたことである。とりわけ、回転不足判定にUnder-rotated(以下URと略す。記号<:4分の1回転以上2分の1回転未満の回転不足)のルールができ、回転不足を恐れずより積極的に難度の高いジャンプに挑戦できるようになったことがあげられる 。

それまでは4分の1以上回転が足りないと、回転不足と判定され、例えば4回転ジャンプで回転不足の上転倒すると、3回転の基礎点しかもらえず、しかも転倒による減点などで、1回転ジャンプ程度の得点になってしまっていた。改正により、UR判定だと四回転の基礎点の70%がもらえることになり難度の高い技に挑戦する意欲が出る。

男子はバンクーバー五輪までは4回転を跳んでいなかったパトリック・チャン選手が素晴らしい4Tを試合で入れてきたことを皮切りにそれまでが嘘のように4回転ジャンプが再び隆盛の時代になった。女子も一部の選手しか跳んでいなかった3回転+3回転のコンビネーションに果敢に挑戦する選手が増え、一気に技術が上がっていった。

2018-19シーズンのルール改正は、正式には6月4日から始まるISUの総会によって決まる。今年は史上初の試みとして、なんと総会の様子がYouTubeでライブスリーミング配信される。既に確定している変更事項もあり、また、5月23日には「2018-2019シーズンにおける価値尺度(SOV),難度レベル(LOD),GOE 採点のガイドライン」も発表され、おおよそのところがわかってきた。本稿の目的は、現在決まっている事柄を中心に改正のポイントを示し、この改正がネイサンにどのような影響を与えるかについて簡単な考察を行うことである。本サイト内の「Information sorting」では現行の2017-2018シーズンと比較してデータの提供をしているので合わせて読んでいただけると有難い。

 

ジャンプの基礎点を下げて、より出来映え重視の方向に

まず、試合全体に関わる主な変更としては、「男子フリーの競技時間が4分半から4分に短縮する」ことと「フリーで跳べるジャンプが8から7になる」という2つだ。このことから体力の負担が軽減された分、全体的により正確で余裕をもったプログラムとして、完成度の高い演技が求められていることが予想される。結果、近年クワドの回数が増えTES(技術点)が相対的に高くなりPCS(演技構成点)とのバランスが悪くなっていたのを是正することが狙いかもしれない。

 

ジャンプの基礎点の変更とGOE(出来映え点)の変更

全体的にジャンプの基礎点が下がった。特に高難度の四回転ジャンプの下げ幅は大きく4Lz(-2.1点 15.4%減)、4F(-1.3 10.6%減)4Lo(-1.5 12.5%減)等となった。それ以上に大きく変わるのがGOEである。これまでの(-3~+3)の7段階から(-5~+5)の11段階に変更する。同時にここが大きな変更点だが、これまでジャンプの回転数ごとにGOEの係数があり加減点が決められていたのが、11段階になると段階ごとに10%刻みで係数が決められ(-5なら-50%、+1なら10%、+2なら20%、…と)その係数がGOE(-5~+5)に掛けられるのではなく、一律基礎点に掛けられることである。

このことでどう変わるのだろうか。これまで4回転だと4回転の中での難易度は関係なく一律にGOEの係数は100%、つまり、GOE+3だと4Tでも4Lzでも3点の加点であった。マイナスの場合は少し変わり-1は1点、、-2は2.4点、-3は-4点の減点となり、GOE-3だと4Tでも4Lzでも4点の減点であった。しかし、今回のルール改正では、係数が10%刻みになっており、しかも基礎点にその係数をかけるため、4TでGOE+5だと基礎点9.5×50%の4.75点が加点されるが、4LzでGOE+5だと基礎点11.5×50%の5.75点が加点されることになる。

同時に-5だと4Tは4.75点の減点だが4Lzは5.75点の減点になる。要するに、同じ回転数のジャンプでも難易度に応じてGOEが加減され、より高難度のジャンプはプラスの場合は大きなインセンティブとなるが、同時にマイナスの場合は甚大なリスクとなる。 現在と変更案を比較すれば以下のようになる(仮に最高と最低の場合 転倒が+と相殺されない場合)

 

4回転トゥループ

現在 変更案
基礎点 10.3 基礎点 9.5
(+3の場合) 13.30 (+5の場合) 14.25
(-3の場合)   7.3 (-5の場合)  4.75
転倒の場合  6.3 転倒の場合 3.75

 

4回転ルッツ

現在 変更案
基礎点 13.6 基礎点 11.5
(+3の場合) 16.6 (+5の場合) 17.25
(-3の場合)   9.6  (-5の場合)  5.75
転倒の場合    8.6 転倒の場合  4.75

 

ステップアウトも厳しくなり、現在GOE-2~-3(-2.4点~4点)から変更案ではGOE-3~-4(4Lzだと-3.45点~-4.60点:変更前11.2点~9.6点が変更後6.90点~8.05点)になる。二つのジャンプを例にしたが(詳細 は 「Information sorting」 参照)、一部を除けば基礎点が下がっても出来映えが良ければこれまでより高得点をもらえ、悪ければこれまでよりもっと下がるというハイリスク・ハイリターン型となる。

「SP,FSでのエラーに対するGOE確定のためのガイドライン(案)」によれば、他にも主な深刻な減点(-3点以上)としてはSPの要素抜けは必ず(-5点)、両足着氷(-3~-4点)、F/Lzでの踏切エッジ違反e(-3~-4点)、ダウングレード(-3~-4点)等があげられる(詳細は 「Information sorting」 参照のこと) もし、平昌五輪がこのルールで行われていたら、ネイサンはひょっとしたらSP落ちの可能性もあったかもしれない。そうするとあの復活のフリーもなかった。そのくらい大きな減点である。 つまり、今まで以上により正確で完成度の高い美しいジャンプが求められることになる。

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4回転ジャンプの複数回制限ルールは多種4回転が跳べる選手に有利か?

2018年ミラノワールド男子フリーでも見られたように、4回転ジャンプの数が多い選手はどうしてもミスも多くなる。一度転倒するとプログラムの全体の流れに影響が出てしまう。しかし、これまで転倒しても回り切っていればある程度の得点がもらえた。しかし、ジャンプの基礎点も下がり、高難度ジャンプの減点も増えたことで、ルール改正後は上記に示したように4回転ルッツの転倒後は4.75点(ジャッジが全員-5を付けた場合)になる。これは3Tや3SのGOE+2(3T基礎点4.2+0.84=5.04、3S基礎点4.3+0.86=5.16)より低い得点になってしまう。

バンクーバー後の改正の際、当時のISU技術委員であった平松氏は「難度の高い技に挑戦する人が減って、技の発展がないスポーツというのもね……。伸び盛りであるノービス(10歳から13歳のクラス)の選手たちがミスで順位を落とすのを恐れて、無難にまとめる傾向が出ていて憂慮していた」と述べている [1] 

同じことが起きないのだろうかという疑問が残る。

そこで、おそらく同時に導入を目指しているのが技術委員会から提案されている「フリーで跳べる4回転ジャンプは1種類につき1度に制限する」という案だろう。この提案の理由としては、より多様なプログラムを持ち、様々なクワドジャンプを実行できる選手にクレジット(名誉、功績)を与えるためとされている。つまり、複数の種類の4回転を跳べる選手が有利となる改正案である。【追記:ISU総会にてクワドの繰り返しは1種類のみ認められることになった】

今までは4Tのみの選手も単独ジャンプと連続ジャンプで2回跳ぶことができた。4Tと4Sの2種持ちだと4回まで跳ぶことができた。しかし、改正ではそれぞれ1度、2回しか跳べないことになりプログラム全体の基礎点は大きく下がってしまう。

例えばネイサンは4回転を5種跳ぶことができるので最高5本の4回転をプログラムに組み入れることができる。ジャンプの本数が8本から7本と少なくなるので、もし、7本中5本を4回転にすれば予定構成の基礎点は他の選手が追随できないような点数になるだろう。しかし、実際は上述したように、ミスがあれば一気にGOEが下がり予定構成の基礎点は絵に描いた餅になりかねない。事実、4回転を複数入れることの難しさを宇野選手が次のようにインタビューで語っている [2] 

「(跳べる)ジャンプが多くて、練習時間が足りないんです…中略…大変ですね。種類が増えると、まずそのジャンプのウォーミングアップから入って、それからジャンプに挑んでという感じでやっていくので、すごく練習時間がとられる」試合前の練習は6分間。「まず1分間スケーティングをして、最初にトリプルアクセル、トーループと跳んで、これでもう2~3分かかる。そこからループ、サルコー、フリップと跳ぶのに、それぞれ1分ずつしかない。1回失敗したらもうやり直せない」

最終的に五輪では宇野選手は3種4本の4回転の構成で完成度を目指した。

6分間練習だけでなく、筆者が生観戦したロステレコムカップのフリー朝公式練習(40分間)でもネイサンは4回転ループが上手くいかず何度も何度もトライしていた。恐らくジャンプ練習の半分以上の時間を費やしていたように思う。観ていて他のジャンプのチェックは大丈夫なのだろうかと心配になるほどだった。練習終了後長い時間アメリカのチームリーダーと話し込んでいた。チームリーダーの方は、ネイサンに限らずいつも選手のジャンパーなどを抱えてコーチの後ろでニコニコしながら見ているイメージがあり、正直とても意外だった。最後は一言二言声をかけてポンポンとネイサンの肩を叩き立ち去った。結局試合ではループを回避してきたが、本当に多種クワドを跳ぶのは練習時間一つとっても難しいことなのだと見ていて素人目にも分かった気がする。


2017 ロステレコムカップフリー朝公式練習
真剣な顔でラファエルコーチと話し合うネイサン〈筆者撮影〉

新ルールだと練習から確実に跳べているジャンプしかなかなか入れてこれないのではないだろうか。少しでも不安があるジャンプは入れにくい。しっかり出来映え点が取れるジャンプを試合で跳ぶために、不安のあるジャンプは回避するのか、それとも挑戦するのか、これまで以上に複数クワド持ちの選手の陣営は戦略を迫られることになる。したがって、この複数回制限ルールも完成度の高いジャンプが跳べれば大きなインパクトとなるが、そうでなければ転倒やステップアウトであっという間に優位性を失ってしまうかもしれない。

 

GOE採点のガイドライン、スピンやステップの価値尺度(SOV)の変更の影響は?

今回のルール改正の大きな変更はこれまでみてきたようにジャンプ要素のルールの変更である。では、ジャンプ以外のスピンやステップでの価値尺度の変更はどのような影響があるだろうか。

その前に、ジャンプもだがGOEの採点のガイドラインも変わる。ジャンプ、スピン、ステップとも8項目からなっていたガイドラインが全て6項目に集約され+1は1項目、+2は2項目などよりシンプルになった。中身も6項目中より重要な3項目がエレメンツに合った内容で示されわかりやすくなったように感じる。例えば、ステップ・シークエンスでは一番目に深いエッジ、明確なステップとターンがきているがコレオ・グラフィック・シークエンスでは最初に独創的でオリジナリティがあるがきており、エレメンツの特長を良く表しているように思う。

この点、本サイトのコメント欄にも「主観的評価が少なくなっているように思えます。もしかしたら前シーズンよりも客観的なジャッジを目指しているのかもしれないと感じました」(まるそふ様)というコメントも寄せられた。現行ルールとの比較を本サイトに掲載しているので是非見て欲しい。

そして、GOEの係数はスピンもステップも上述したジャンプ同様基礎点に掛けられるようになった(コレオステップsq除く)。

例えば(F)CCoSp(スピン・コンビネーション、足替えあり)ではレベルに関係なく一律にSOVは(1.5点~-0.9点)であったが、ルール改正では基礎点に掛けられるためレベルごとに異なる。+5では(レベル1は0.85点~レベル4は1.75点)と0.9点上がる。これまでレベル4で最高の+3のGOEだった選手がレベル4で+5になると(基礎点3.5+1.5)の5点から(基礎点3.5+1.75)の5.25点となる。半面レベル3以上にならないと現行より下がってしまう恐れがある。

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同様にステップ・シークエンスを見てみよう。これまで+の場合レベルB~レベル3までが一律で(0.5点~1.5点)、レベル4のみが(0.7点~2.1点)の加点幅であった。ルール改正で同じく基礎点に係数が掛けられることで、レベルによって加減点が変わる。+の場合レベルBは(0.15~0.75)、レベル1(0.18~0.90)、レベル2(0.26~1.30)、レベル3(0.33~1.65)、レベル4(0.39~1.95)の加点となる。

ここでよく見ると、レベル4に関しては+5のGOE評価となっても加点がこれまでの+3評価の2.1点から1.95点と下がってしまう。つまり最大6点(基礎点3.90+2.1)から5.85点(基礎点3.9+1.95)と目減りしてしまうのである。ステップはそれでなくとも時間と労力の割に得点の比率が小さい気がしていたのと、ステップを見せ場とする選手も多く、見ている我々スケートファンには楽しみなエレメンツなだけに個人的には非常に残念に感じた。

そして、おそらくこのステップ・シークエンスの得点減を補うのがコレオ・グラフィック・シークエンスの基礎点が2.0点から3.0点へとアップしたことであろう。コレオシークエンスはレベルがないため、GOEの値に(-50%~+50%)の係数が掛けられ、0.5点~5.5点となる。コレオシークエンスで+5がもらえれば5.5点となりステップ・シークエンスのレベル4でGOE+4の5.46点より得点をもらえることになる。導入時の自由に曲を表現して独創的な演技を見せて欲しいという主旨がより色濃くなってくるのであれば非常に楽しみである。

 

既に選手達は4年後の北京五輪を見据えて

本稿を書いているちょうどその時にボーヤン・ジン選手のクリケット完全移籍とジェイソン・ブラウン選手のクリケット移籍の報が飛び込んできた。選手たちは既に4年後を見据えて動き出している。いかに自分の弱いところを克服し、強みを伸ばすためにはどうすべきか戦略を確実に練ってきている。

【追記:ボーヤン選手についてはその後白紙に戻ったという情報もあり不明 7/15日現在】

また、ロシアのコリヤダ選手も7月中旬から2週間レイクウッドのリンクでラファエルコーチについて練習する予定とのこと。ネイサンと一緒に練習できるのも楽しみでまだ気づいていない細かなことを知ることができるかもしれないと非常に楽しみにしているようだ。きっとネイサンにとっても素晴らしいスケーティングと非常に質が高いスキルを持つコリヤダ選手と一緒に練習することは大きな収穫であろう。

こうしてライバルたちもお互いに切磋琢磨しながら競争し、様々な変化にもしなやかに適応しようとしている。ルール改正はいつの時代も誰かが有利になり誰かが不利になったかもしれない。しかし、どの選手も与えられたルールに合わせて努力していく姿に私達は心を動かされ、応援したくなる。

ネイサンにとっては2018-19シーズンは大学に入学し、学業とスケートとの両立という大きな挑戦が待ち受けている。これまでアイビーリーグのような世界トップレベルの大学に世界王者のエリート選手が籍をおいて両立したことはあまりないという。しかもラファエルコーチと遠く離れ個人練習になるかもしれない。しかし、ネイサンからは下記インタビューでもこれからの挑戦にワクワクしている様子が伺える。

「エール大学は子供のころからずっと行きたいと思っていた。スケートと両立していける最良の方法を見つけていきたい」
「新学期が始まるのは8月の末です。トレーニングは、大学のキャンパスから30分ほどのリンクに通う予定です。(略)ラファエルがいない間は、1人でトレーニングをすることになるでしょう。コネチカットに移住といっても、年のうち(夏休み休暇など)4カ月はうちに帰れます。あとはラファエルに来てもらい、ぼく自身も行けるときは(カリフォルニアに)通うつもり。
まだ正確な授業のコアコースの予定が出ていないので、それがわかったらもっとはっきりスケジュールが立てられると思うんです」(NumberWeb  田村明子氏インタビューより)

 

既に4セメスター(2年間)はしっかり就学し、その後の2年は北京五輪のために休学するつもりであるとの話もある。きっとネイサンならポジティブにマイペースに大学生活も競技生活も楽しみながら挑戦してくれるのではないかと私たちファンも期待で胸がいっぱいだ。

最後に、今回のルール改正でネイサンに有利に働くと思われる改正について。それはSPのソロジャンプ前に必ず要求されていた「ステップ/動作がない」GOE-3)と「ステップ/動作からただちにジャンプしない、ジャンプ前のステップ/動作が一つのみ」(-1~-2)のエラーのガイドラインがなくなったことであろう。日本の解説でもイタリア解説でも常に指摘されていたところだ。これがなくなると4回転ルッツとフリップどちらにもコンビネーションを付けられるネイサンはまた構成の幅が広がる。少なくともこれでGOEがマイナスされることはない。

冒頭で「男子フリーの競技時間が4分半から4分に短縮する」ことと「フリーで跳べるジャンプが8から7になる」という2つから、体力の負担が軽減された分全体的により正確で余裕をもったプログラムとして、完成度の高い演技が求めらるのではないかと書いた。しかし、よく考えてみると30秒短くなること、ジャンプが一つ減ることで、逆に密度の濃いプログラムが求められ選手は益々大変になりそうな気もする。要は…

”目指すはテクニックと美しさの両方を兼ね備えたトータル・パッケージの選手”

ネイサンならきっとやってくれる。そして4年後には今度こそこういう姿を見たいものだ。

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ラファエルコーチ、イェール大学に入学することなったネイサンに対して

「ネイサンにとっては大変だろうが、彼をできるだけ助けたい。彼は僕の子どもみたいなものだからね。何があっても彼の味方だ」

 

<**ラファエル・アルトゥニアンコーチに対しては、親しみを込めてアルトゥニアンコーチではなく、あえて文中ラファエルコーチと表記させて頂きました。また、イエール大学についての表記は参考資料引用部分はそのまま「エール大学」としましたが、本文ではイエール大学と表記しました。>

≪参考資料≫

[1]

[2] 『フィギュアスケート特集 Kiss and Cry』
「宇野 「頑張る時間、すごく好き」ジャンプ習得に向け意欲」朝日新聞社 2017年9月14日

 

追記1(2018.7.15)

この記事を書いた後ISU総会でクワドの繰り返しについては1種類のみ2回跳ぶことが認められることになった。

また、ボーナスジャンプについては日本案が採択され、「SPでは最後の1本」「FSでは最後3本」がボーナスジャンプとなった。

昨年の演技をもとに今回のルール改正の点数シミュレーションがネット上で行われているのを見かけます。ネイサンについては昨年より20点以上下がるとする結果も見ました。こいういうシミュレーションを気にして今回のルール改正はネイサンに一方的に不利であるかのような感想がTwitterでも見うけられます。しかし、昨季は昨季、今季は今季。ネイサンだけではなく新しいルールに合わせて今後はどの選手も質が高く完成度の高い演技を目指してくると思います。新ルールの下では高難度のジャンプを跳ぶ選手は成功すれば大きくスコアを伸ばすことができます。反面、失敗は大きな致命傷となりスコアを大きく下げることになります。

本文でも書きましたが、選手やコーチは難しい選択を迫られることになるでしょう。少々のリスクを犯しても挑戦するのか、それとも調子の悪いジャンプは外しまとめた演技を心がけるのか。選手やコーチの性格にもよると思いますし、見る方はドキドキしながらもスリリングな展開を楽しめそうです。ネイサンは5種6クワドを計算上、ルール上は跳ぶことができます。サウスカロライナのリンクで撮影された動画では綺麗に4ループを降りていました。どんな構成でくるのか、全くわからないですね。だからこそワクワクするし面白い。私達ファンも一概に有利だ不利だなどと考えずに求められたものにネイサンやラファがどう合わせてくるのか楽しみにしましょう。五輪が終わり、しかも大学入学という新しいシーズン。結果はもちろん気になりますが、挑戦のシーズンになりそうですね。

追記2(2018.8.9)

ネイサンや宇野選手などザアイスに出演中のスケーターや日本人スケーターを中心にルール改正に関してのインタビューが掲載されました。これについては他の選手のインタビューなども出揃い次第記事にまとめたいと思います。

主なインタビューでの発言

オーサーコーチ:「ジャンプ、スピン、ステップ全てをバランスよくこなしてこそフィギュア。僕らの考え方に近くなったと思う」

ネイサン
「4回転ルッツとサルコーなどとの基礎点差が縮まり、難度の高いジャンプにトライするインセンティブは下がったと思う。基本的に自信があって跳びやすいジャンプを跳べば よく、完成度が低いジャンプをしなくていい。表現により集中できる。よりクリアな演技を目指す」

「新しいルールについては、よく理解しています。僕にとって、新しいルールは“頑張りすぎないこと”なんじゃないかと思います。大会が始まるまでに『Land of All』がどうなっていくのか(自分自身も)今のところは分かりませんが、(プログラムを)良くするために直すところがいくつかあると思います」

宇野選手
「より質のいいジャンプを成功させることが大事」「“面白いな”と思うところは特にないです(苦笑)。大変というよりも、(演技時間が)30秒短くなったことで少しバタバタしてしまうので、(プログラムに)慣れて、もっと表現ができるように、もっとゆとりができるように頑張っていきたいです」「やはりジャンプの加点(GOE)が大きく変わりましたので、新しいジャンプに挑戦するというよりも、今すでに跳べているジャンプの(成功の)確率を上げて、よりキレイに跳べるように練習しています」

田中選手:「4回転とか難しいジャンプの助走時間が短くなった感じ。体力的にかなりきつい」

 

参考資料