スケートアメリカ2018 現地観戦レポート(2)

ショートプログラムを首位で折り返して、フリーへ

SP1位で迎えた翌日のフリーは、朝の公式練習から4ルッツも100%とはいかなかったがまずまずの確率で決まり、3クワド(4ルッツと4トゥループを2回)の予定構成通りの練習で落ち着いて観ていられた。

(朝の公式練習で落ち着いた様子のネイサンとラファ。入念に確認)

(最後はリンクメイトのミハルを待って一緒に笑顔でご挨拶。この大会ではチームラファの一員として楽しんでいる様子が随所に見られた)

本番ではほぼノーミスの演技。フリーの得点189.99点(TES99.05点+PCS90.94点)、ショートプログラムとの合計280.57点で優勝。この時点でのフリーと総合両方で世界最高点となった。

では、フリーの演技を振り返ろう。

曲はウッドキッドのLand of All。移民がテーマのメキシコ・フランス合作映画(ノー・エスケープ自由への国境:原題 Desierto)のサウンド・トラックで、振付はモントリオールのマリー=フランス・デュブレイユ&サミュエル・シュイナール。ネイサンにとってはデュブレイユと組むのは初めてだが、何しろ今を時めくアイスダンスの名コーチであり振付師。モントリオールには現世界王者のパパダキス&シゼロン組を始め多くのトップダンサー達が揃い、きっと大きな刺激を受けたに違いない。同じ東海岸のモントリオールは大学から行きやすく(それでも車で5時間はかかるとのこと)、今後プログラムのブラッシュアップはもちろん、スケーティングや表現を学ぶにはうってつけのところであろう。できれば1か月に1度は行きたいとインタビューでも述べていた。

冒頭の上半身をそらせる美しい印象的な振付から始まるプログラム。最初のジャンプは3ループ、6.16点(3Lo 4.90+GOE1.26)。続いて4ルッツ。ここは着氷が少し前傾となってしまったがこの時期に4ルッツを入れられたのは大きい。11.99点(11.50+GOE0.49)。ロシアの8番ジャッジだけGOE-3であとは0~2であった。

ここから次のジャンプまでがこれまでのネイサンのフリーと比較すると非常に繋ぎが満載で見ごたえがある。軽々と3フリップ+3トゥループのコンビネーションジャンプを跳んだが、ここでもエッジがまさかのアテンション!を取られてGOEを伸ばすことができなかった。10.3点(3F+3T 9.50+GOE0.53)。続いて3アクセル、9.60点(3A 8.0+GOE1.60)。

次はレベル4の足換えのキャメルスピン4.07点(CCSp4 3.20+GOE0.87)。そして中盤のハイライト、ステップ・シークエンスへ。ここはレベルが2となってしまった(レベル3なら基礎点3.30、レベル4なら基礎点3.90)3.60点(StSq2 2.60+GOE1.0)。殆どのジャッジがGOE+4をつけており非常に惜しい。次戦の対応が待たれる。

後半ボーナス点がつく3つのジャンプのうち最初と2つ目はジャパン・オープンでミスの出た4トゥループ。しかし、朝の公式練習から難なく跳べておりここは余裕で観ることができた。4トゥループ+3トゥループのコンビネーションジャンプ16.29点(4T+3T 15.07+GOE1.22)、4トゥループからの3連続ジャンプ16.06点(4T+2T+2Lo 13.75+GOE2.31)。

凄みを増した圧巻のコレオ・ステップ・シークエンス

続いてコレオシークエンス直前のジャンプ。ジャパン・オープンではここの4サルコウで転倒して音楽、振付に遅れてしまい、恐らく十分に明確でないと判断されてGOEマイナスになってしまった。今大会では最後のジャンプは短い助走からの3ルッツ。余力を持ってコレオ・ステップ・シークエンスへ。体全体を美しく使ったネイサンならではの素晴らしいコレオ。創造的でオリジナリティがあり、音楽表現に優れていてエネルギーも十分。鬼気迫るような表情にも引き込まれる。5.21点(ChSq 3.0+GOE2.21)で、ジャッジ9人中4人がGOE+5、4人が+4、1人が+3とこれまでになく高い評価を引き出した。

プログラムの最後は2つのスピン。レベル4のフライング足換えコンビネーションスピン4.50(FCCoSp4 3.50+GOE1.0)、足換えコンビネーションスピン3.36点(CCoSp2  2.50+GOE0.66)。ショートではレベル4が取れたもののフリーではレベル2となってしまった。

音楽の解釈で9.25の高い評価

全体を通してクワドの数を3つに抑えたこともあり、非常にクリーンで余裕のある演技だった。ウッドキッドの切ないボーカルによく合い、これまで以上に一蹴りが伸びるスケーティングも音楽と一体化して素晴らしく、クワドキングだけでない表現者としての一面を印象付けた。ショートプログラム同様、このフリープログラムもネイサンのまた新たな魅力を引きだしたと言えよう。PCSは「技の繋ぎ」が8.86点だった以外は全て9点台を揃えてきた。特に「音楽の解釈」の項目は9.25点と非常に高い評価を得ることができた。跳べるジャンプをすべて入れるのではなく、ルール改正に合わせてプログラムの完成度を重視した演技でジャッジからも高評価を得たのは大きな収穫である。

 

キスクラではネイサンもラファも満足の表情。今できることをほぼ完璧にこなせたフリーだったと言えよう。

冒頭に述べたが映画自体は移民を扱ったなかなかシビアな内容である。今季より「演技力」でスケーターがプログラム全体で何を表現したいのかが明確に伝わってくることが重視されるようになり、プログラムを一つの作品として完成度の高いものにすることが求められるようになった。ネイサンは、このフリーのテーマについては当初「音楽の意味がわからなかった」そうだが、「聞けば聞くほど歌詞の深い意味がわかるようになった。政治の話はあまりしたくないけど、移民のことを知ってもらえたらうれしい」(ディリースポーツ)と述べている。このように演じる気持ちも含めて、明らかに今季は大人のネイサンが見れそうである。

今シーズンの目標は1試合ごとに進化していくこと

フリー終了後のプレスカンファレンスでは、皆が気にしている大学との両立についても今現在の心境を語ってくれた。シニアのGPシリーズ3勝目を飾り、初戦優勝したことでグランプリ・ファイナルの切符もほぼ見えてきた。もちろん、今季は結果を求めるシーズンでないにしても、コーチや家族と初めて離れての生活やトレーニング。結果も出てきっとほっとしたのではないだろうか。

「大学とスケートどちらでも、そのうち浮き沈みはあるでしょう。大学だけでも大変ですから。毎晩翌日が期限の課題が大量に出されます。だから睡眠時間を削らないといけない。それで翌日練習に行くと『何もできない』と思ってしまいます」「いずれ、練習と勉強と睡眠の時間を また整理しないといけないでしょう。バランスが大切です。今はどうすれば良いか学んでる段階です。この先、もっと大変な時期が来るでしょう、でも、大学生活をもっと楽しめて良い経験にできる時期も来るでしょう。」「今日のスケートには満足です。前回の試合からずっと良くなった。今シーズンの目標は、1試合ごとに進化して行く事です。クワドに関しては難易度を下げました。でも、シーズン序盤の今、このくらいで丁度良いと思います。もっと(クワドを)増やしてていきますけど、他の部分も向上して行くつもりです」

 

2位にはリンクメイトのミハル・ブレジナが入り、キスクラでのラファエルコーチを交えた3人のハグや、時間がない中リンクメイトの本田真凜をポンサールと一緒に応援に来るなど束の間であったが、チームラファの一員として大会を楽しんでいたのも印象に残る出来事だった。

(リンクメイト、ミハル・ブレジナの結果を見守るネイサン。後ろにジョニーとタラ)

(ミハルが2位になったことがわかりキスクラに上がり、ミハル、ラファと熱い抱擁の後の3人の素敵な笑顔)

(表彰式後チームラファで記念撮影。ヴォロノフも元教え子であり、アルトゥニアンコーチが本当に嬉しそうだった)

 

ネイサンのアメリカ男子18年ぶりのスケートアメリカ2連覇で沸いた大会。フリー終了後はサイン会やスポンサーブースでのトーク、翌日はエキシビション練習前に連盟主催の朝食会への出席など超多忙なスケジュールをこなした。エキシビションの最中も大学の課題に追われ、エキシビションのフィナーレに参加することなく深夜便でニューヘイブンへ戻り(時差3時間が厳しい)翌朝から授業に出席。本当に時間がなく、インタビューもバックヤードで歩きながらこなしたのもあるという。トップ選手と有名大学の学生としての学業を両立することがいかに大変か、我々ファンも大いに考えさせられたスケートアメリカだった。

次回第3弾はスケートアメリカの総括です。朝食会などネイサン周辺情報や日本女子の大活躍、チームラファ、ペアやダンスなどなどをお届けします。

 

注)写真に関してはNCJPの写真とともに、USスケート連盟やISUで公式写真を撮られているアメリカ人のカメラマンMs.Robin Ritossさんにご許可頂いて一部使用しております。